学校教育と著作権

    (大和 淳 著)

    Q1児童、生徒の作品にも著作権はありますか。

    A1 児童、生徒の作品にも著作権はあります。著作権は、小説、音楽、絵画、映画、写真、コンピュータ・プログラムなどの作品(著作物)を創作した者に対して認められる権利です。著作物であるためには、表現に創作者の創意工夫があればよく、その作品に芸術的、学術的又は経済的な価値があるかどうかは問われません。

    したがって、児童、生徒が、学校の図画工作や美術の授業時間に描いた絵、国語の授業時間に書いた作文や感想文、あるいは家庭内で書いた日記や友人に宛てた手紙などは、ほとんどのものが著作物であると考えてよいでしょう。

    ところで、一言で「著作権」と言いますが、この権利は、創作者としての人格的な利益を保護する「著作者人格権」と、無断で複製などの利用をされないことを主張できる「著作権(財産権)」とに分けられ、それらの権利については、次表のように細分化されています。

    著作者の権利
    著作者人格権 著作権(財産権)
    公表権
    氏名表示権
    同一性保持権
    複製権
    上演・演奏権
    上映権
    公衆送信権・公の伝達権
    口述権
    展示権
    頒布権
    譲渡権
    貸与権
    翻訳・翻案権
    二次的著作物の利用権

    ※この表および文中で「複製」と説明している行為には、複写機やスキャナーなどで写真的に(画像として)再製するもののほか、テキストデータとして入力したり手書きで書き写したりすることも含まれます。「無断でコピーしてはいけないが、手書きなら問題ない」という誤解をしないよう注意が必要です。

    児童生徒が書いた作文を印刷して文集にする場合を例にして、どのような行為に著作権が関係してくるのかを説明します。

    まず、「著作者人格権」について考えてみると、著作者にはその未公表の著作物を公表するかどうかを決定できる「公表権」が認められていますので、作文のような学習の課題としての作品は、教員(特定少数の相手)に提出されたものであって、まだ公表されていません。したがって、このような未公表の著作物を文集に掲載する(公表する)ことについては、児童生徒の同意を得ておく必要があります。学習の課題としてではなく、もっとも、はじめから「みんなで文集を作ってお互いに読む」という目的で執筆したものであれば、重ねて公表の同意を得る必要はないでしょう。
    また、著作者の氏名をどのように表示するかについても配慮が必要です(「氏名表示権」)。 もっとも、作文を文集に掲載する場合には、学校で使われる本人の氏名を表示するのが通常でしょう。さらに、著作者には著作物の題名や内容を勝手に変えられない権利「同一性保持権」が認められていますので、先生が良かれと思っても、本人の意に反する改変は原則としてできません。

    次に「著作権(財産権)」について考えてみると、「印刷」という行為は著作物の「複製」に該当し、文集をクラス内に配付する行為は作文の複製物の「譲渡」に該当しますので、著作者である児童生徒に「複製」と「譲渡」の許諾を得る必要があります。

    学校における教育活動のなかで児童生徒の作品を利用する場合でも、著作権法の規定を厳格に運用すると、以上のとおり、著作物の利用ごとにそれをどのような行為で利用するのかについて、表に示した権利と照らし合わせて著作者の同意や許諾を得ることになります。しかし、学校教育活動を円滑に実施するために、入学時や年度初めに教育方針を説明する機会に合わせて児童生徒の作品の利用についても包括的に説明しておくという方法も考えられます(教員による指導は、児童生徒の資質や能力を育成することを目指すものなので、暗黙の了解があると考えることもできますが、教員が児童生徒の作品を、当然に加工したり利用したりできるというものではありません。また、児童生徒やその家庭のプライバシーに関わる内容が含まれる場合には、著作権とは別の配慮が必要であることはいうまでもありません。)。

    Q2授業の過程で使用するために教員が作成する教材に、既存の著作物を利用する場合、どのような点に注意すればよいですか。

    A2 授業の過程では、教科書や副読本以外の補助教材を、教員の手により作成することがあります。その際、すべて教員自身が創作する場合だけでなく、既存の著作物を利用して教材を作成する場合も多いと思われます。 著作権法では、このような場合に無断で他人の著作物を利用できる例外規定が設けられています。


    著作権法第35条第1項 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
    ※この規定では、「複製」「公衆送信」「公の伝達」について述べていますが、本問ではそのうちまず「複製」について説明します。「公衆送信」「公の伝達」については後掲Q5をご覧ください。

    例えば、授業のために教員が他人の作品の一部を利用してプリント教材を作成し、児童、生徒に配付する場合などは、この規定により、著作権者の許諾を得ずに行えることとなるのです。ここでいう「授業」とは、各教科の授業に限られるものではなく、教育課程上に位置づけられた、特別の教科・道徳、外国語活動、総合的な学習(探究)の時間、特別活動なども含まれるものと考えられます(学習指導要領に規定された教育活動でなければならないわけではありませんが、全国共通の基準である同要領に基づいて編成、実施されている教育課程上の活動であれば、少なくともそれらは学校における授業と考えてよいと思われます。)。また、教員自らが複製するのではなく、当該教員の依頼に基づき事務職員等が複製することについても、この規定の適用があると考えられています。もっとも、教育委員会が一括して教材を作成する過程で他人の著作物を複製し、管内の学校において教員がそれぞれ担任する児童生徒に当該教材を使用させるような場合は含まれません。

    なお、「授業の過程において使用する」ために教員が主体となって複製する場合であっても、すべての場合に無許諾で行えるわけではありません。授業のために必要と認められる限度を超えて複製することはもちろん、著作物の「種類」や「用途」、複製の「部数」や「態様」に照らして著作権者の利益を不当に害することとなる場合にも、著作権者の許諾が必要となります。したがって、例えば、

    • 学習用ソフトウェアなどを児童、生徒が使用する複数のパソコンにコピーする場合(著作物の「種類」に照らして問題)
    • 児童生徒一人一人が購入することを前提としているワークブックやドリル教材などをコピーして配付する場合(著作物の「用途」に照らして問題)
    • 授業に直接関係のない者に対しても配付するために複製する場合(複製の「部数」に照らして問題)
    • 市販の商品と同様な形態で製本するなど、授業の過程を離れても使用可能なように複製する場合(複製の「態様」に照らして問題)

    などには、原則として著作権者の許諾が必要となります。

    各教科や総合的な学習(探究)の時間等において、児童、生徒が調べ学習などの成果を資料にまとめクラス内に配付するような学習形態が増えていますが、その資料に児童生徒が他人の著作物を複製する場合には、前述の教員の場合と同様の条件により、調べ学習をした児童、生徒の行為についても著作権者の許諾を得ずに行えることになっています。

    なお、この規定に基づき、著作物の利用を行う場合、作品の題名、著作者名などを明示する慣行があるときには、合理的な方法により出所を明示しなければならないことになっていますが、調べ学習の発表資料にその情報の調査元を示すことは指導上も重要とされていますので、出所明示の慣行があると考えられます。

    さらに、この規定により作成された資料を、「授業の過程における使用」という目的以外に使用する場合には、その時点で改めて著作権者の許諾を得る必要が生じることに注意してください。

    ※この設問でいう「複製」の意味については、Q1の表の下の説明をご覧ください。

    Q3文化祭等で、演劇の上演や音楽の演奏を行う場合、著作権者の許諾を得ておく必要がありますか。

    A3大勢の人に見せたり聞かせたりするために演劇の上演や音楽の演奏などを行う場合には、原則としては上演権や演奏権等が働くことになり、著作権者の許諾を得る必要がありますが、(1)その上演又は演奏等が営利を目的としていないこと(2)聴衆又は観衆から鑑賞のための料金を取らないこと(3)演奏したり、演じたりする者に報酬が支払われないこと という3つの要件をすべて満たす場合には、著作権者の許諾を得ずに演劇の上演や音楽の演奏をすることができます。


    著作権法第38条第1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもってするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。


    小・中・高等学校の文化祭や合唱祭ではほとんどの場合、これらの要件を満たすと思われます。したがって、そのような場合であれば著作権者の許諾を得る必要はありません。

    この規定により著作権者に無許諾で利用できる場合は、上演、演奏、上映、口述についてのみなので、脚本や楽譜のコピーについては著作権者の許諾を得なければなりません。著作権者の許諾を得る方法については、Q15をご覧ください。

    ところで、これらのコピーについては、非営利・無料・無報酬の演奏等の例外の対象にはならないとしても、先に紹介した「授業の過程における使用のための複製」(Q2参照)の規定により、著作権者の許諾を得ずに行えるのではないかとの考え方もあります。このことについては、著作権法第35条第1項のただし書きを考慮する必要があり、例えば、公演に供する目的で販売、レンタル等により提供されているものがある場合には、無断でコピーすることはできない場合もあると考えられます。

    なお、楽譜については、「一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)」が、脚本などの文献複写については、「公益社団法人日本複製権センター」が、多くの権利者の委託を受けて、利用の許諾手続を行っています。このような著作権の管理団体に関する情報については、文化庁のホームページの「著作権等管理事業者の登録状況」に掲載されていますので、それを確認してください。

    Q4学校図書館で児童生徒に対して図書を貸し出す行為について、著作権法ではどう考えればよいのですか。

    A4 書籍など著作物の複製物を公衆に貸与する場合には、原則としては貸与権が働くことになり、著作権者の許諾を得る必要があり、例えばコミックレンタルなどのビジネスでは、レンタルショップは漫画家などにレンタルの許諾を得てその業務を行っています。
    しかし、次の規定の要件を満たす場合には、著作権者の許諾を得ずに著作物の複製物を公衆に貸与することができます。


    著作権法第38条第4項 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。



    すなわち、
    ① その貸与が営利を目的としていないこと
    ② 貸与を受ける者からそのための料金を受けないこと
    が要件となり、学校図書館は営利を目的として図書等の貸出業務を行っているわけではなく、図書等を借りる児童生徒から貸出料金を受けるものではありませんので、これらの要件を満たし、著作権者の許諾を得る必要はありません。

    この規定では、「映画の著作物を除く」とされていますので、DVDなどの映画の著作物の複製物を児童生徒に貸与する行為には適用されません(第38条第5項に映画の著作物の頒布(貸与)を著作権者の許諾なく行えることが規定されていますが、この規定の適用を受けることができる施設は限られており、学校図書館は含まれていません。それは、学校教育向けに動画教材(視聴覚資料)などを貸し出す施設(いわゆる視聴覚教育ライブラリー)があり、その施設を同規定の適用対象にしていれば足ると考えられるからです。なお、視聴覚教育ライブラリー等は、著作権者の許諾を得ることなく学校等に視聴覚資料等を貸し出すことができますが、その場合でも、相当な額の補償金を支払わなければならないことになっています。)。

    この規定で除かれているのは映画の著作物だけですので、音楽の著作物の複製物であるCDや美術の著作物の複製物である画集なども、前述の要件を満たす限り著作権者等の許諾を得る必要はありません。

    Q5運動会等で、プラカードや看板などに人気漫画のキャラクターを描く場合、著作権者の許諾を得ておく必要がありますか。

    A5プラカードや看板等に人気漫画やアニメーションのキャラクターを描くことは、漫画等の複製に当たり、原則として著作権者の許諾が必要になりますが、学校などの教育機関においては、授業の過程で教師や児童、生徒が複製する場合は、例外的に権利者に無断ですることができます(著作権法第35条)(Q2参照)。

    著作権法で規定されている「授業の過程」には、各教科の授業はもちろんのこと、教育課程に位置づけられた運動会、文化祭等の学校行事など特別活動についても該当すると考えられます(学習指導要領に規定された教育活動でなければならないわけではありませんが、全国共通の教育課程の基準である同要領に基づいて編成、実施されている活動であれば、少なくともそれらは学校における授業と考えてよいと思われます。)。逆に言えば、学習指導要領に基づくものでなくても、学校の管理下の教育活動として教科等の学習と同様に授業といえるものもあると考えられます(小・中・高等学校以外の教育機関では、学習指導要領のような統一的基準もなく本条の適用があるため)。

    したがって、設問のように、教育課程上の運動会等で使うために、児童生徒がプラカードや看板などに人気漫画のキャラクターを描くことについては、その学校行事の教育効果を高める上で必要である(著作権者の側からみた場合、権利行使ができる範囲を制限されてもやむを得ないと考えられる限度)と認められるならば、許諾を得ずに複製できる場合に該当すると考えてよいでしょう。どのような場合に「教育効果を高める上で必要である」と認められるかは、その教育活動の目的や実施方法、あるいは学校の実態などに照らして個別に判断する必要があり、一律の基準のようなものは設けられていません(教育関係者と権利者団体等とが協議をしてガイドラインを作成することは可能です。)。無断で利用できる例外規定を活用しようとしているのですから、もし、著作権の侵害になるのではないかという疑義が生じた場合には、それが必要と認められる限度内の行為であることについての第一義的な説明責任は学校にあり、少なくとも、特別活動としてのその行事の目標や計画に照らして著作権を制限することが妥当な理由を説明できることが必要でしょう。学習指導要領で定められたもの以外の活動を、授業として本条の規定を適用しようとする場合も同様です。

    なお、「授業の過程における使用」という目的のための複製であれば許諾を得る必要がないという例外規定ですので、運動会等の教育活動を終えても常設的に展示するような場合であれば、無断で利用できる条件を満たさない可能性があります。

    ※この設問でいう「複製」の意味については、Q1の表の下の説明をご覧ください。

    Q6インターネットを活用して他の学校と連携した同時双方向の遠隔授業をしたり、インターネットを通じて学習資料や動画教材をアップロードしておき事前学習(いわゆる反転学習のための予習)に供したりする場合、どのような点に注意すればよいですか。

    A6インターネットを活用して遠隔授業をしたり、オンデマンドで教材を提供したりする際に教員が作成したもの以外の動画、静止画、音声情報、文字情報などの著作物を利用する場合、第三者の著作物を「公衆送信」することになります。また、インターネットを通じて提供される著作物を、大型のディスプレイなどで受信者に見せる場合、著作物を「公に伝達」することになります。このような場合、著作権法では次のような規定を設けています(平成30年の著作権法の一部改正)。


    著作権法第35条第1項  学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
    2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
    3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業 を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。


    ※この規定では、「複製」「公衆送信」「公の伝達」について述べていますが、本問ではそのうち「公衆送信」と「公の伝達」について説明します。「複製」については前掲Q2をご覧ください。

    インターネットを活用した授業や教材の提供に当たって著作物を利用(公衆送信)する場合には、Q2と同様、例外的に著作権者の許諾を得る必要がないという仕組みになっています。ただし、遠隔地の複数の教室の間で同時に双方向の授業を行う場合と、それ以外の場合とでは取り扱いが異なっています。前者は平成16年からの取扱いで、著作権者の許諾を得る必要もなく、何らかの対価を支払う必要もありません。後者は平成30年の改正により著作権者の許諾を得る必要がなくなりましたが、学校の設置者(小・中・高等学校の場合は教育委員会や学校法人)が著作権者に対して補償金を支払う必要があります。

    まず、遠隔地の複数の教室の間で同時に双方向の授業を行う場合について説明します。例えば、A小学校が県内外の多数の小学校との間でインターネットを通じた遠隔授業を行う場合、A小学校の 教員が同校の児童に対して絵画の原作品を見せたり新聞記事のコピーを配付したりして説明する様子を、他の小学校にインターネットで送信すれば、絵画や新聞記事が「公衆送信」されることになります。しかしそのような「公衆送信」については、この規定により、著作権者の許諾を得る必要がなく、補償金の支払いも必要ありません。また、遠隔授業により、音楽の授業で児童が演奏したり国語の授業で児童が朗読したりすれば、音楽や文芸作品が「公衆送信」されることになりますが、この「公衆送信」についても許諾を得たり補償金を支払ったりする必要がありません(なお、A小学校において児童が演奏したり口述したりする行為についても、非営利、無料、無報酬の演奏として、「演奏」、「口述」の許諾を得る必要がありません(第38条第1項)(Q3参照)。)。

    なお、「授業」とは、教科の授業に限られるものではなく、教育課程上に位置づけられた特別の教科・道徳、外国語活動、総合的な学習(探究)の時間、特別活動なども含まれるものと考えられます(学習指導要領に規定された教育活動でなければならないわけではありませんが、全国共通の基準である同要領に基づいて編成、実施されている教育課程上の活動であれば、少なくともそれらは学校における授業と考えてよいと思われます。)。

    上記の説明では、場面を分かりやすくするため「遠隔地の複数の教室」と説明しましたが、規定では「当該授業が行われる場所以外の場所」とされています。したがって、両方が教室である必要はなく、一方が教室であり、その授業を教員がいない他の場所で同時に受けるような状況も含まれます。具体的には、欠席している児童生徒が自宅でインターネット経由の授業を受けるケース、病気で入院中の児童生徒がいわゆる院内教室のような方式でインターネット経由の授業を受けるケース、適応指導教室に通っている児童生徒が同施設でインターネット経由の授業を受けるケース、いわゆる保健室登校をしている児童生徒が保健室でインターネット経由の授業を受けるケースなども、同時双方向の遠隔授業であれば「公衆送信」の許諾を得ずに著作物を利用することができます。

    次に、同時双方向授業以外の場合について説明します。具体的には、授業のための教材(著作物が含まれたもの)を児童生徒に対して授業の時間に関わらず一斉にメールで送る場合、授業のための教材(著作物が含まれたもの)をインターネットを通じて児童生徒がいつでもアクセスできるようにアップロードする場合などが考えられます(授業の解説をあらかじめ収録した動画をアップロードすることもこれに含まれます。)。事前に提供された学習資料を予習したうえで授業に参加する、いわゆる反転授業のために教材(著作物が含まれたもの)を送信することもこの取り扱いの対象です。さらに、遠隔授業のような態様で授業が行われている場合でも、送信者側に教員だけしかいない場合(教員が会議室や放送室のスタジオなどから解説をする場合など)や、双方で同時に授業が行われていない場合(片方の授業の様子を録画して、異なる時間に他方の学校にそれを送信する場合など)にはこの取り扱いの対象になります。

    このような場合の公衆送信については、前述の同時双方向授業と同様に著作権者の許諾は不要ですが、学校の設置者(小・中・高等学校の場合は教育委員会や学校法人)が著作権者に対して補償金を支払う必要があります。この補償金を受ける権利はあらゆる著作権者を代表する一つの団体によって行使されることになっており、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)がそれに指定されています。

    注意が必要な点は、学校の教員や児童生徒が授業の過程で利用することを目的とした著作物の送信行為であっても、「当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は無断で公衆送信することはできないということです。例えば、市販のドリルや教育用ソフトウェアのように、一人ひとりが購入することを前提として販売されている補助教材を一部だけ購入して遠隔授業で送信することは、著作物の「用途」に照らし著作権者の利益に影響を与えますし、スクランブルをかけたり利用者ID・パスワードを付与したりして受講者を限定することなく、受講者以外の不特定の者も視聴できるように送信することは、「公衆送信の態様」に照らし著作権者の利益に影響を与えますので、これらのような場合は無断で公衆送信できるケースには当たらず、著作権者の許諾を得る必要があります。その方法については、Q17をご覧ください。

    なお、この規定は著作隣接権(演奏家、歌手、俳優などの実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者が持つ権利)についても準用されていますので、授業が行われる時間以外に送信される教材等の資料に実演やレコードが含まれている場合(動画の一部を教材として利用する場合など)には、実演家等にも補償金を支払う必要があります(実際には、著作者に対する補償金に上乗せする必要はなく、授業目的公衆送信補償金等管理協会に対して支払われる包括的な補償金の中からそれらの権利者に分配されます。)。

    Q2及び本問で、例外的に著作権者の許諾を得ずに複製や公衆送信を行うことができる要件を説明しましたが、授業目的公衆送信補償金等管理協会では、著作権者等の団体と教育機関の団体から委員の参加を得て、それらの関係者の情報交換や話し合いによってこの規定を運用するために必要なガイドラインを策定しています。教育機関における様々な利用方法について、権利者と利用者の間の共通認識を得るべく、現在も話し合いは続いていますが、これまでコンセンサスが得られた部分については、同協会のホームページで公開されています。

    三番目に、公の伝達について説明します。
    同時双方向授業のための公衆送信やそれ以外の公衆送信は、授業を担当する者やその授業を受ける者によって行われる行為であり、それについてどのような要件を満たせば著作権者の許諾を得る必要がないかを説明しました。しかし、インターネットを活用した授業としては、それら以外にも、例えば文部科学省やその他の省庁、教育委員会等が作成して公開している動画教材にインターネットを通じてアクセスし、教室で児童生徒に視聴させるような場合もあります。このような行為は、公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達していることになります。これについても、前述の公衆送信と同じ要件で例外的に著作権者の許諾を得る必要がないとされています(補償金の支払いも不要)。

    ところで、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した時、小・中・高等学校の休校期間中や学校再開後も3密を避けるためにオンラインを活用した教育活動も拡大しました。その際、体育祭や合唱祭などの学校行事(特別活動のひとつ)について保護者の参加(参観)を自粛してもらう場面も見られ、その代わりにインターネットを活用して行事の様子を同時に各家庭で視聴できるように送信する取組も行われました。このような学校行事でも音楽などの著作物が利用されますので、行事を各家庭に送信する場合には著作物の公衆送信が行われることになります。厳密に考えると、このような目的での送信は授業を受ける者に対する送信とは言えませんので、本条の適用はありません。しかしながら、初等中等教育における学校・家庭・地域社会の連携の推進という社会的要請などの背景もあり、前述の著作権者等の団体と教育機関の団体による話し合いの場で、「限定された相手への同時送信」又は「あらかじめ視聴可能期間を定めてその期間経過後には消去することとしたオンデマンド送信」であれば、著作権者等の許諾が必要とならない範囲(補償金の支払いは必要)に含めることについて合意されています。このことに関しては、「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度)初等中等教育における特別活動に関する追補版」が作成されています。

    Q7入学試験問題に既存の著作物を用いる場合、どのような点に注意すればよいですか。

    A7入学試験や、中間・期末の定期試験等において、例えば国語や音楽の問題の中に既存の著作物を利用することは多いと思われます。その場合、厳正な試験を行うためには、事前に著作権者と連絡をとり利用の許諾を得るということは不可能でしょう。そこで、このような場合、著作権法では次のような規定を設けています。


    著作権法第36条第1項 公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

    例えば、文芸作品、新聞の社説、音楽作品、美術作品等を「複製」や「公衆送信」によって試験の出題に利用する場合は、この規定により、著作権者の許諾を得る必要がありません。ただし、以下のような点に注意する必要があります。

    出題方法のうち、まず他人の著作物の「複製」による場合について考えると、許諾を得ずに複製できるのは、「試験又は検定の目的上必要と認められる限度」に限られますので、出題と直接関係のないものを複製することはこれに当たりません。

    また、他人の著作物を利用して出題する場合には、著作者人格権にも留意することが必要です。これは、著作権者に無断で利用できる例外規定は「著作権(財産権)」について設けられているのであって、「著作者人格権」についても適用されるものではないからです。したがって、試験としての出題の際には、試験問題としての性格上真にやむを得ない改変である場合を除き、原文のまま利用することが原則であると考える必要があります。この場合、真にやむを得ない改変としてどのようなものが該当するかについては、明確な基準を定めるのは困難であるため、個別の具体的事例ごとに総合的に判断する必要がありますが、例えば、いわゆる「虫喰い」問題に正しい語を答えさせるとか、分解した文章を正しい順序に並べさせるなどのような出題については、やむを得ない改変として認められると考えられます。逆に、例えば、難解な表現の原文を平易な表現に修正して出題するとか、途中の部分を省略した旨を明示せずに省略して出題するなどの場合については、同一性保持権の侵害を問われる可能性があると思われます。

    試験問題として他人の著作物を許諾を得ずに複製できる場合であっても、出所の明示が義務づけられていますので、著名な作品の題号や著作者名を問うような場合を除き、適切な出所明示をする必要があります。

    なお、中間・期末の試験については、教育課程の実施(授業)の一環として、第35条の規定の適用を受けて、許諾を得ずに利用できるという側面もあります(Q2、Q6参照)。

    次に、他人の著作物を「公衆送信」することによって行う試験について考えます。近年、インターネットなどを利用した遠隔試験も行われるようになっており、厳正な試験を実施できるようにする観点から、「複製」の場合と同様に、試験に他人の著作物を用いて「公衆送信」することについても著作権者の許諾を得る必要がないとされています。

    その要件については、「複製」の場合とほとんど同様です。したがって、受信者(受験者)の求めに応じて、インターネットなどにより自動的に、又はファクシミリなどにより手動で試験問題を送信する場合に、他人の著作物を用いても許諾を得る必要がないことになります。しかし、公衆送信であっても放送又は有線放送を除くこととされていますので、受信者(受験者)の求めがなくても送信されるような形態であれば無断で公衆送信することはできません。また、著作物の「種類」や「用途」に照らして「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にも無断で公衆送信することはできませんので、例えば、ソフトウェアを受験者に送信したり、既存の問題集で編集著作物であるものをそのまま送信したりすることについても無断では行えません。さらに、「公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」も無断で公衆送信することはできませんので、例えば、ホームページ上に常時掲載したままで、求めがあれば試験に関係のない者に対しても送信できる(アクセスすれば誰でも閲覧することができる)ような態様であれば、許諾を得る必要があります。

    ところで、試験の中には、学校等で行われる入学試験や定期試験のようなものばかりでなく、教育関連事業者等の行う模擬試験などもあります。この場合にも同様に、複製や公衆送信の許諾を得る必要はありませんが、営利目的の場合には、事後に著作権者に対して通常の使用料に相当する額の補償金を支払わなければならないことになっています。なお、他人の著作物を利用して入学試験を実施した後に、当該学校等がいわゆる過去問として、その試験問題を冊子にして配付したりホームページに掲載したりする場合については、Q8をご覧ください。

    ※この設問でいう「複製」の意味については、Q1の表の下の説明をご覧ください。

    Q8ある教育関係の出版社が、本校の過去5年間の入試問題をまとめた書籍を発行したいと申し出てきました。どのように対応すればよいのでしょうか。

    A8まず、入試問題が著作物であるかどうかを検討する必要があります。例えば、単純な数式を解く問題や、漢字の読み、書き取りの問題であればその問題自体は著作物とは考えにくいと思われます。しかし、著作物と考えにくいものであっても、それらを素材として、その素材の選択、配列によって、創作性を有するものであれば、全体として編集著作物と考えることができる場合もあります。

    また、場面、状況、条件などを文章で解説したうえで解答させる問題の場合、出題者が記述した解説の文章が言語の著作物と認められる場合もあります。

    このように、仮にその試験問題が著作物である場合には、その問題を作成した学校が著作者であり、かつ、著作権者であると位置付けられる場合が多いでしょう。したがって、問題集を発行しようとしている出版社に対して、学校は著作権者の立場で、条件を示して利用の許諾をするとか、逆に申し出を断るということもできるわけです。

    次に、入試問題の中に、文芸作品、新聞の社説、音楽等の著作物が利用されているかどうかによってさらに対応が異なる場合もあります。つまり、他人の著作物を複製して入試問題ができあがっている場合には、学校だけでその利用の許諾を与えることはできないからです。入試問題に既存の著作物が利用されている場合には、試験問題の利用を申し出た出版社に対して、素材の著作物の著作権者からの許諾を得ることを条件にしたうえで、学校としての許諾を与えるなどの配慮が必要でしょう。

    なお、入試を行った学校自らがその後に問題集などを作成することについても同様に考える必要があります。つまり、学校自らが著作権者である場合には、自らの判断で問題集を作成すればよいのですが、問題の中に他人の著作物が利用されている場合には、学校がその素材の著作物の著作権者からの許諾を得る必要があります。これは「試験を行う」という行為と「(入試後に)問題集を作成する」という行為とでは、性質が異なるためであり、後者にはQ7で紹介したような例外規定が適用されないからです。そこで、他人の著作物を利用した入試問題を用いて問題集を作成したり、それをホームページに掲載したりすることについて、学校関係者が団体を作って著作権者(文芸作品中心)の団体と交渉し、簡便な手続きで、かつ低廉な使用料で著作権者の許諾を得る取組が進められています(著作権利用等に係る教育NPO)。

    ※この設問でいう「複製」の意味については、Q1の※の説明をご覧ください。

    Q9本校の近隣にある学習塾で、本校の定期テストの問題が演習教材に用いられているようです。どうすればよいですか。

    A9基本的にはQ8の応用問題です。

    中学校などの中間・期末テストの個々の問題が著作物であるかどうか、テストの問題に他人の著作物が用いられている かどうかなどを整理したうえで、学校に著作権があるとすれば、著作権者としてその権利をどう行使するかは学校が判断することになります。その際、他人の著作物が利用されている場合には、その著作権者の意向を確認しておくことも必要でしょう。

    なお、テストの問題が著作物であり、学校に著作権があり、その学習塾で用いられている演習教材が学校のテスト問題によく似たものであったとしても、相手方から「学校のテスト問題には依拠しておらず、偶然似たものになっただけだ」と反論される可能性は、理論的にはあり得ます。

    仮にそれが無断で行われている(学校が持つ著作権を侵害している)とした場合、本校の試験問題を無断で利用しないでほしいという利用の差し止めを求めることもあるでしょうし、手続きをとってもらえば承諾するということもあるでしょう。承諾をする場合、何らかの条件を付すことも可能です(もっとも、公立学校の場合、歳入の取扱いに関しては学校が単独で決めることはできません。)。

    著作権制度は、著作物の利用を禁じる法制度ではなく、その著作物の利用に関して権利者と利用者とが話し合い、契約によって一定の秩序を形成しようとするものです(話し合いの結果、著作権者が利用を許諾しないということはあります。)。教員研修などを考える際、このような事例は、自分が持つ著作権を侵害されたときにどう思うか、それを解決するためにはどうすればよいかを考えるにはよい題材かもしれません。

    Q10本校の主催で、著名人を招き、保護者や生徒を対象とした文化講演会を計画しています。講演の録音、講演風景のビデオ・写真撮影、講演録の印刷・発行などについて注意すべき点を教えてください。

    A10講演も言語の著作物であり、著名人でなくても著作権を有することになりますので、その講演の利用については、あらかじめ想定される利用行為を含めた許諾を得ておく必要があります。

    講演会に外部の人を招き、一定のテーマで講演をしてもらう場合には、その当初の依頼の時点で、条件は何であるかを明確にしておかなければ、後々のトラブルにならないとも限りません。

    例えば、講演だけを行ってもらうという条件で開催したところ、内容が評判となったため、たまたま録音していたテープを元に、テープ起こしをした講演録や録音テープの複製物を希望者に無料で配付したとします。

    講演者にしてみれば、講演を複製したものが広く配付されると次の講演の機会が失われると考えて、そのようなことまでは認めていなかったと主張する場合もあるかもしれません。また、そのような複製物を配付するのであれば、内容や表現のチェックをしたいと考えるでしょうから、仮に事前の了解もなく行われてしまえば、著作権侵害を主張したくなる場合もあります。

    主催者側には、しばしば次のような誤解があり、問題がこじれることがあります。

    • 謝金を払って講演してもらったのだから、その著作権は主催者側にある。
    • 営利目的ではないし、複製物は無料で配っているのだから、講演者に対し、経済的不利益を与えていない。
    • 演題、講演者名など出所の明示をしていれば著作物は自由に利用ができる。

    など、これらはいずれも誤りです。例えば、講演を録音する場合、又はその録音物を元に、印刷やダビングをする場合、さらにはその講演の模様を中継や録画で放送する場合などの利用行為を行うことが明らかであれば、すべて事前に、講演者の許諾を得ておく必要があります。また、当初予定しなかった利用を行う場合には、その都度追加的に交渉することも当然に必要です。

    なお、講演者の顔や姿の写真撮影については、著作権法上の権利ではありませんが、判例の蓄積により確立されつつある「肖像権」の関係も生じますので、利用にあたっては事前にその目的や方法を説明したうえで承諾を得ておくべきでしょう。

    講演会などを開催する場合の著作権に関する契約については、文化庁のホームページに「誰でもできる著作権契約」の入門編や実践編が掲載されていますので、参考になるでしょう。

    Q11コンピュータを活用して数学の授業を進めるため、本校の教員が独自にあるソフトを開発しました。同じ発想や機能で、あるソフト会社が教育ソフトを製作し、販売していますが、先に考え出した教員の権利は守られないのでしょうか。

    A11設問の事例は、先にある発想を元にして著作物を創作した場合に、後から同様の発想により別の著作物を創作、頒布しようとする者に対し、何らかの権利主張ができないかというものですが、アイディアについて、著作権法上の権利主張をすることはできません。

    近年、教育へのコンピュータの利用が一般化し、市販ソフトだけでなく、教員自身が開発したソフトを用いて学習を行わせる教育も見られるようです。

    こうしたコンピュータ・プログラム(ソフトウェア)も小説や音楽などと同様に著作物であり、それを作成した教員(又は教育機関等)はそのプログラムの著作物の著作権者となります。

    しかし、著作権法は、創作者の創意・工夫に基づく「表現」を保護しているので、その表現の背後にある「アイディア(発想)」等については、著作権法の保護が及びません。したがって、例えば、数学のある定理を学習させるために、アニメーションによって理論を図解するソフトを開発した場合、同じ発想を持った別の人が、同じ機能を持つソフトを作成したとしても、その機能を果たさせるための表現(プログラム言語による命令の記述)をコピーしない限り、著作権の侵害にはならないのです。

    もっとも、アニメーションによって映し出されるキャラクターの姿形や細かい動きまでそっくり同じで、プログラムの表現は全く異なるというものはほとんどあり得ないでしょうから、ディスプレイの出力(画面表示)により、ある程度は判断ができると思われます。

    Q12学校図書館で購入した新着図書を児童生徒に「おすすめ図書」として紹介するために、「図書館だより」にその書籍の表紙をコピーして掲載し、内容の紹介文も加えて配付しようと思います。どのような点に注意すればよいですか。

    A12 書籍の表紙をスキャンするなどして配付物などに掲載することは「複製」に当たり、原則として著作権者の許諾が必要です(書籍によっては表紙にタイトルと著者名だけしか表示されていないものもあり、そのような表紙は著作物ではなく、著作権の問題が生じないものもありますが、イラストや写真をデザインした表紙であれば、美術の著作物や写真の著作物に当たります。)。
    しかし、著作権法では「美術の著作物等の譲渡等の申し出に伴う複製等」という例外規定が設けられています。


    第47条の2 美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第26条の2第1項又は第26条の3に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。


    これは、インターネット通販やインターネットオークションなどで物品を売る際に当該物品の写真をWebサイトに掲載すると、その物品に著作物が利用されている場合(例えば、キャラクターグッズ、コミック本、画集、写真集など)、著作物を「複製」し、「公衆送信」することになるのですが、このような場合、譲渡権や貸与権の侵害とはならない提供行為であれば、そのための「複製」や「公衆送信」については著作権者の許諾を得る必要はないとした規定です。

    学校図書館が購入した書籍を児童生徒に貸し出すことは、非営利・無料であれば、著作権者から「貸与」の許諾」を得る必要はありません(Q4を参照)ので、この規定が適用されます。

    なお、「図書館だより」では、児童生徒に対して貸し出すためにその書籍の表紙の「複製」や「公衆送信」を行うのであり、観賞用など他の用途に転用できるほどの画質が必要となるわけはありませんので、著作権法施行令において表示のサイズや画素数の上限が規定されています(50㎠以下、32,400画素以下など)。

    したがって、プリント資料としての「図書館だより」や学校ホームページの図書館のコーナーに、「おすすめ図書」として新着図書の表紙を利用する場合には、高画質なものでない限り著作権者から「複製」や「公衆送信」の許諾を得る必要はありません。

    ところで、設問では「内容の紹介文」についても触れています。

    物語などの内容を要約する場合、著作物の「翻案」に当たる場合があります。どの程度の要約であれば「翻案」になるかについてはケースバイケースですが、児童生徒にその図書の存在を紹介する、つまり、それを読んでみようと思わせるような紹介文であれば概ね問題はないでしょう。逆に、その紹介文を読めば図書そのものを読まなくても足りるようなまとめ方であれば「翻案」の許諾が必要です(「学校その他の教育機関における複製等(第35条)」の規定により「複製」「公衆送信」の許諾が不要となる場合には、「翻案」の許諾も不要ですが、「図書館だより」の作成は授業の過程における利用ではないため、この規定の適用はないと考えるべきでしょう。)。

    Q13新聞や雑誌に教育問題に関する記事が掲載されており、本校の教育活動の改善のために参考になると思うので、職員会議で検討するため複製して配付したいと思います。どのような点に注意すればよいですか。

    A13新聞や雑誌の記事を複製するときは新聞社や雑誌社の許諾を得る(新聞社や雑誌社がすべての著作権を持っている)と考えがちですが、必ずしもそうではありません。新聞や雑誌の多くはその全体に着目して「編集著作物」といわれることもありますが、編集著作物とは、素材の選択又は配列によって創作性を有する編集物のことであり、その素材自体が著作物である場合には、素材の著作権と編集物の著作権を区別して考える必要があります。

    すなわち、新聞や雑誌に掲載されている報道や解説の記事、論文・論説、イラスト、写真などのひとつひとつが著作物として権利を認められていますので、複製しようとしている記事を誰が創作したのかを考えなければなりません。もちろん当該新聞の社内記者が執筆した場合もあるでしょうが、教育関係の記事であれば、教育評論家や大学の研究者が寄稿したものかもしれません。したがってそれを職員会議で配付するのであれば、その創作者(著作者)から、資料として複製すること及び会議のメンバーに配付する意味で譲渡することについて許諾を得る必要があるということになります。

    このような文献複写は学校の職員会議だけでなく、官庁や企業など社会の多くの場面でも行われているようですが、複製されている文献は、新聞や雑誌に日々掲載される様々な記事の中から必要度に応じて特定される著作物であり(新聞、雑誌などを丸ごと複製するようなことはない)、複製の部数も当該部署の構成員に限られているという実態もあることから、複製の都度、対象となる著作物の著作権者と連絡をとって許諾を得ることは実務上非常に煩雑です。そこで、出版物に利用される著作物に係る多くの著作権者から権利の委託を受け、官庁や企業などの組織内で行われる文献複写について、簡便な手続により許諾するシステムができています。

    具体的には、新聞、雑誌など多様な文献を日常的に複製して組織内に配付する場合には、著作権等管理事業者である公益社団法人日本複製権センターと契約を結ぶことにより、ほとんどの文献の複製について包括的な許諾が得られる(個々の著作物ごとに、又は複製を行うたびに、著作権者と連絡をとって契約を結ぶ必要がない)ことになっており、同センターでは、契約の方式についても組織における複製の実態に応じて複数の方式から選択できるなど、利用者の便宜を考慮した権利処理体制をとっています(同センターをはじめとした著作権等管理事業者に関する情報は、文化庁のホームページに掲載されています。)。

    なお、ここでは新聞記事等を紙にプリントして組織内の職員に配付する行為をイメージして紹介しましたが、そのほかに、記事をスキャンして作成した電子データをLANを通じて職場内で閲覧可能な状態にする行為も考えられます。このような行為についても簡便に許諾が得られる場合もありますので、各著作権等管理事業者に確認してください。

    ※この設問でいう「複製(複写)」の意味については、Q1の表の下の説明をご覧ください。

    Q14保護者や地域社会向けに学校だより、保健だより、図書館だよりなどを作成して発行する際、記事に関する事柄を既存の文献等から引用したいと考えています。また、カット集から記事の内容にふさわしいイラストを使いたいと思います。どのような点に注意すればよいですか。

    A14学校では、児童生徒のための活動のほか、家庭や地域社会に向けた広報や情報発信も重要です。学校だよりなどの「通信」は、紙媒体だけでなく、学校ホームページ等を通じて発行する学校も増えているようです。

    学校での様々な取組を紹介したり報告したりする場合、当該学校の教職員が記事を書き下ろすのがほとんどでしょうが、内容によっては専門的な文献資料から引用しながら説明することもあるでしょう。この「引用」については、「出所(出典)さえ表示しておけばよい」という誤解が時折見られます。

    著作権法では、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であれば、例外的に著作権者の許諾を得なくてもよい(第32条)とされています。また、そのような条件を満たして許諾を得なくてよい場合であっても、利用の態様に応じ出所を明示しなければならない(第48条)とされています。つまり、出典を表示することによって無断で利用できるのではなく、「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲内」という要件を満たすことが必要で、それを満たした場合でも出所を明示する義務があるということになります。

    これらの要件については、これまでの裁判例の蓄積によって、引用するものと引用されるものの間で適切な主従関係があること、引用部分の区分が明瞭であること、引用の必然性があることという考え方が定着しています。

    したがって、学校の各種通信の記事において他の文献等から引用する場合には、学校の記事が「主」として存在し、それを補足したり説明したりするために「従」として他人の著作物が用いられ、引用された部分を「 」でくくったり文字のポイントやフォントを変更したりして本文との区別を明確にし、学校が執筆する記事の内容との関係性がある部分が引用されているのであれば、適切な引用と認められることになります。その上で、出所を明示する義務が課されます。

    このように考えると、カット集に載っているイラストを通信の紙面に使うことはどうでしょう。学校の記事としてそのイラストそのものを批評したり研究したりするのであれば引用と言えるかもしれませんが、紙面のいろどりといった利用目的であれば、無断で利用できる規定の適用は難しいでしょう。もっとも、カット集などであれば、そもそもそのような目的で発行されている場合もありますので、利用規約や説明文を確認すれば権利侵害とならない範囲が分かるでしょう。インターネットを通じて入手できるイラスト等でも、著作権者が一定の範囲での利用をあらかじめ許諾して流通させているものもあります。

    著作権法上の例外的な取り扱いとしての「引用」にはルールがあり、安易に拡大解釈をすることは問題です。他方、引用の規定に該当しない場合であっても、著作権者が利用を許諾する意思表示をしているものをその指定された条件で利用すれば権利侵害の心配をする必要はなく、今日ではそのような形で提供されているコンテンツも多くなっていることも知っておくと便利です。

    Q15著作権教育とはどのようなものですか。

    A15情報伝達技術(ICT)の発達・普及に伴いパソコンやインターネットが身近なものとなっていることから、著作権教育はすべての人にとって重要になっているといわれています。

    企業内でも、環境問題や個人情報保護の問題と並び法令遵守教育のひとつとして著作権に関する研修が行われるようになってきています。著作物を商品として製作したり流通させたりする事業者はもちろん、直接的に著作物を取引の対象として扱わない分野の事業者においても、他人の著作権を侵害する行為はその事業者の社会的信用に大きく影響するため、その重要性が再認識されているようです。

    このような社会の変化に伴う時代の要請には、学校現場においても応えていくことが必要です。この冊子において解説しているとおり、学校現場で行われるような行為については様々な例外規定が定められているため、著作権者の許諾を得ずに他人の著作物をコピーしたりすることができる場合が多いわけですが、それらの例外規定が適用される要件を正しく理解しておく必要があります。そして、例外を理解するためにはまず原則を正しく把握していなければなりません。この原則の部分は民間企業等で働く人とまったく同じであり、すべての社会人が身に付けておきたい内容です。

    そこで、教員として知っておきたい著作権制度の原則的な内容とはどのようなものでしょう。おおむね次のような事項が基本的なものとして考えられます。

    1. 著作物とは
    2. 著作権はどうすれば発生するか・取得できるか(無方式主義)
    3. どのような行為について著作者の許諾を得なければならないか(権利の種類・内容)
    4. 著作権はいつまで存続する権利か(保護期間)

    これらの原則的な内容を理解すれば、自分たちにも権利があることに気づきます。また、身の回りにある様々な著作物がどのように自分たちの手に届いているのか考えることを通じて社会の仕組みが理解できるかもしれません。そのように、著作物の流通(利用)とは多くの場合、契約によって成立していることを押さえた上で、例外規定の内容や要件を知っていれば、本来、著作権者を捜して契約交渉をしたうえで利用の許諾を得なければならないところを、例外規定を活用することにより手間が省けることもあるということに気づけるのではないかと思われます。そうすると、「どうすれば許諾が得られるのか」ということに関心が向くと思いますが、そのことについてはQ17を参照してください。

    ところで、児童生徒に対する著作権教育についてはどう考えればよいでしょう。著作権のような知的財産権を保護する制度の意義(形のないものに対する価値)については抽象性が高く、発達段階によっては的確に認識することは難しいと思われますし、法律としての体系的な学習も容易ではありません。

    したがって、必ずしも上記の1.~4.などにとらわれることなく、児童生徒の発達段階を踏まえた上で、著作物やその著作者の創作行為に対して敬意を払うことができるように指導・支援することが重要と考えられます。具体的には、「作品には作者の気持ちが込められており、それを傷つけることは許されないこと(人格権)」、「他人の持ち物を借りるときにはその持ち主の了解を得る必要があるのと同様に、人が作った作品を借りる(=表現を利用する)ときにも了解を得ること(財産権)」、「先人の生んだ文化的所産によって学術研究が深化したり文化が豊かになったりしており、それを継承していくことでさらに将来に向けて文化が発展していくこと(創作~流通~利用のサイクル)」などといった内容を体験的に学習させるといった観点から様々な教育活動の場で指導することが考えられます。現行の学習指導要領においても、中学校「技術・家庭科」、高等学校の「情報科」の内容に著作権や知的財産に関する事項が掲げられ、また、「音楽」や「美術」の教科・科目の内容の取扱いとして著作権への配慮についての記述が盛り込まれるとともに、著作権を含む情報モラルについて学校の教育活動全体を通じて指導することが記述されています(いずれにしても児童生徒に対する著作権教育の中では、例えば教員の活動に適用されるような例外規定を学習するとか、著作権法の体系を学習するといったことは必ずしも中心的な内容にはならないものと思われます。)。

    以上のように、一言で著作権教育といっても、その人の立場により学習する内容や視点が異なってきますので、目的や対象に応じて題材や教材などを工夫することが重要です。

    近年、初等中等教育においては、GIGAスクール構想をはじめとして情報化を踏まえた児童生徒の学びの環境の整備が進んでいますが、端末や通信環境といったハード面の環境整備とともに、デジタル・シティズンシップ教育という考え方も注目されるようになってきています。インターネットの普及により情報化した環境では利便性と危険性が表裏一体になっていることから、児童生徒の安全の観点から従来は規制的・抑制的な指導になる傾向がないとは言えませんでした。しかし、これからの社会はインターネットを避けて生活を営むことは考えられないので、情報に関するリテラシーも「規制」から「活用」へと意識を転換していくことが重要になっています。著作権もそれと同じで、「作者に権利があるから使ってはいけない」というのではなく、「どうすれば利用できるのか(許諾が得られるのか)」というポジティブな発想に転換していくことが大切です。

    なお、小学校、中学校、高等学校の様々な教科の指導の過程で、ちょっとした場面で簡単な働きかけをすることにより、児童生徒に著作権に関する興味や関心を抱かせることができる教材が開発され、インターネットを通じて入手できるようになっています。
    「5分でできる著作権教育」、また、文化庁のホームページでも著作権教育のための教材や資料が入手できるようになっています。

    Q16最近の著作権法の改正内容を教えてください。また、それらを学校の教育活動の中でどのように取り扱えばよいですか。

    A16情報伝達技術(ICT)の発達・普及や国際的な動向の変化に対応して、著作権法はしばしば改正されています。過去十数年だけをさかのぼってみても次の表のような改正が行われており、とくに近年はネットワークを利用した著作物等の利用に関し、権利を強化したり逆に権利を制限したりする内容が多くなってきています。

    改正年 主な改正内容
    平成15年 映画の著作物の保護期間を公表後50年から公表後70年に延長。
    教育機関における複製等に関する例外規定の改正。
    平成16年 書籍の貸与に係る暫定規定の改正(書籍にも貸与権を付与)。商業用レコードの還流防止規定の導入。罰則の強化。
    平成18年 視覚障害者のための例外規定の改正(録音物の自動公衆送信)。機器等の保守・管理のための例外規定の追加。罰則の強化。
    平成19年 「映画の盗撮の防止に関する法律」の制定。
    平成20年 「教科書バリアフリー法」に基づく障害者等の利用のための例外規定の改正。
    平成21年 国立国会図書館資料の電子化、障害者のための例外規定の見直し、インターネットオークション等に係る例外規定の追加。違法サイトからのダウンロード(録音・録画)の違法化、裁定制度の見直し。
    平成24年 いわゆる「写り込み」、検討の過程における利用、実用化試験のための利用、国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信等に係る例外規定の追加。違法サイトからのダウンロード(録音・録画)の罰則化。
    平成26年 いわゆる電子出版に係る出版権に関する改正。
    平成28年 原則的な保護期間を50年から70年に延長、技術的利用制限手段回避行為のみなし侵害化、有償著作物等の利益侵害目的の著作権侵害の非親告罪化等、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う改正。
    平成30年 思想・感情の享受を目的としない利用、教育機関における複製・公衆送信、障害者の情報アクセス機会を充実させるための利用(マラケッシュ協定への対応)、美術館等の展示作品の紹介のための電子化、コンピュータの利用に附随する利用、情報処理に附随する軽微な利用等に係る権利制限規定の整備。
    令和2年 違法サイトへの誘導行為のみなし侵害化。違法サイトからのダウンロードの規制範囲の拡大。「写り込み」、「行政手続」に係る権利制限規定の整備。ライセンシーの地位に係る対抗制度の導入。侵害訴訟における手続規定の整備。アクセスコントロールの規制対象の明確化。
    令和3年 国立国会図書館や公共図書館による送信サービス、放送番組のインターネットを通じた同時配信等に係る許諾推定
    令和5年 著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設、立法・行政における著作物等の公衆送信(クラウド利用)、損害賠償額の算定方法の見直し。

    平成24年の改正では、その附則において「国及び地方公共団体は、未成年者があらゆる機会を通じて特定侵害行為(著者注・違法サイトであることを知りながら私的使用の目的で有償著作物をダウンロードする行為)の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、学校その他の様々な場を通じて特定侵害行為の防止に関する教育の充実を図らなければならない。」(改正附則第7条第2項)と規定し、学校における啓発を義務付けています。

    ここで大切なのは、改正された個別規定の内容の理解もさることながら、その部分のみに著作権教育の内容を特化させるのではなく、著作物や著作者の尊重、契約の意味など著作権制度の基本的な内容をまず理解させることが前提だということです。もちろん、例えば生徒がすでに著作権制度の仕組みを十分に理解できているような場合には、発展的な内容として「特定侵害行為の防止」のような法改正の具体的事項を理解する学習を深めることもあり得ましょうが、一般的には、情報モラル教育の一環として前述(Q15参照)のような基本的事項を身に付けるように指導することが期待されます。令和2年の法改正の際にも同様の附則が規定されましたが、考え方としてはそれまでと変わっていません。

    学習指導要領において「内容」として著作権が明示されているのは、中学校の「技術・家庭」や高等学校の「情報」ですが、知識・技能にとどまらず思考力・判断力・表現力や学びに向かう力といった資質・能力の育成を目指す観点からは、他の教科等の領域でも、例えば中学校学習指導要領の「音楽」や「美術」の「内容の取扱い」に記述されているような視点をもって児童生徒の学びを支援することが必要です。その際、「著作権」という言葉を必ず用いなければならないのではなく、作品に触れることを通じて自他の尊重を意識させたり、文化的所産の意義や価値に気付かせたりすることに重きを置くことも著作権教育として意味があるものと思われます。どのような内容の教育であっても指導と評価は一体的に考えられていなければなりません。著作権教育の場合も同様で、権利の内容や保護期間などを知識として知っていても、何も考えずにインターネットを通じて好きなものをダウンロードしたりアップロードしたりするようでは、必ずしも学びに向かう力までをも身に付けたとは言えないでしょう。作品や作者を尊重する意識や態度が定着したかどうかを重視する評価を心がけたいものです。

    Q17著作権者から許諾を得るというのは、具体的にどうすればよいのですか。

    A17著作権に関する理解が深まってくると、著作物の利用にあたっては、たとえ営利を目的としていない場合であっても著作権者の許諾を得なければならない場合があることに気付きます。

    許諾を得るとは、複製などの利用について著作権者に了解してもらう契約を結ぶことですが、わが国では契約には方式は問われず、当事者の合意(申込と承諾)があれば口頭であっても成立することになっています。ただ、著作権の契約とは形のない財産に係るものであり、利用の方法も様々なものがあり得ますので、合意の内容はできるだけ文書にしておくほうが望ましいと考えられます。その際には、利用方法(複製なのか、演奏なのか、ホームページへの掲載なのかなど)、利用期間、利用の場所、二次利用の有無(コピーして配付した後にホームページにも掲載したりするなど)、その他の条件(対価を徴収して提供するのか否か、著作物使用料をどう扱うのかなど)を明確にしておく必要があるでしょう。文化庁のホームページに「誰でもできる著作権契約」のサイトを設けて様々な例が紹介されていますので、参考にしてください。

    また、多くの人に利用される可能性が高い著作物の著作権者は、自分の権利を団体に委託している場合があります。その場合であれば、当該団体を通じて一定の手続きにより許諾が得られます。このような業務を行う団体は著作権等管理事業者と呼ばれ、法律の規定により「正当な理由がなければ許諾を拒んではならない」とされています。著作権者である個人が自ら著作権を行使する場合には、他人に利用されたくないと拒否されることもあり得ますが、このような団体が預かっている場合には原則として許諾されることになりますので、利用者にとっても便利です。例えば、校内の合唱コンクールの模様をビデオ撮影してDVDにコピーし思い出の記録として保護者に配付したり、学校説明会で教育活動の状況を説明するためのビデオ映像に背景音楽を入れたりする場合、本来であれば、コピーする楽曲(音楽の著作物)ごとに作詞家や作曲家と連絡をとって許諾を得る交渉をしなければならないわけですが、著作権等管理事業者である一般社団法人日本音楽著作権協会と契約を結ぶことにより、ほとんどの楽曲のコピーについて許諾が得られることになります。そのほかにどのような著作権等管理事業者があるかについても文化庁のホームページに掲載されていますので、必要に応じて確認してください。

    これらの方法以外でも、簡便な手続きにより利用できるようにするため団体間で教育現場の実情に応じたルールを作成するという方法も考えられます。そのようなルールを作成していくためには、学校教育関係者全体における著作権に関する意識を高めながら相手方の団体との信頼関係を強化し、双方が「権利の保護」と「円滑な利用」の調和に向けて取り組んでいくことが大切であると考えられます。

    「許諾を得る」というのとは少しニュアンスが異なりますが、最近は「著作者等の事前の意思表示に従った利用」も便利な方法として広がりつつあります。インターネットを通じて写真やイラストその他のコンテンツを発信する際に、「利用規定」などのページで「~のような方法(や条件)で利用する場合には、個別の連絡を要することなく無償で利用してもよい」という趣旨の著作者の意思を表示しているものです。インターネットを通じて発信されているコンテンツにも著作権はありますが、アップロードする際に著作者等が上記のようなメッセージを付記していれば、利用者は利用の許諾を得るために著作権者を探す手間が省けます。これと同様の方式をシステムとして運用しようと提唱しているのが「クリエイティブ・コモンズ」また、文化庁も「自由利用マーク」を付す運動を提唱しています。これらはいずれも法律上の取り扱いではありませんが、著作物の利用手続きを円滑化するための「生活の知恵」と言えます。これらのコンテンツを利用する場合には、それぞれの規約等を読んでおくことが大切です。

    なお、許諾を得るために著作権者を捜したものの、相当な努力を払っても見つからなかった場合には、文化庁長官に対して利用の裁定を申請することができるという制度もあります(著作権法第67条~第70条)。この手続きについては、従来、裁定を受けるまでの間は利用できないなどの課題がありましたが、担保金を供託することにより早期の利用が可能となるなど制度が改善されました。また、令和5年の法改正により、アマチュアの作品などで、著作権が集中管理されているわけではなく、利用に関する著作者の意思が不明なものについて、補償金を団体に預けることにより時限的な利用を文化庁長官が裁定する(その間に著作権者の申し出を待つ)しくみが設けられました。SNSなどで公開されている個人の写真やイラストなどを再利用したい場合などに利用できる制度です。

    Q18著作物の利用に関する相談や利用許諾が得られる窓口にはどのようなところがありますか。

    A18 著作権に関する相談窓口としては以下のようなところがあります。

    著作権全般

    公益社団法人
    著作権情報センター (CRIC)
    著作権相談室
    〒164-0012
    東京都中野区本町1-32-2
    ハーモニータワー22階
         

    紛争の可能性がある場合

    日本司法支援センター
    通称:法テラス
    無料で問題解決のための道案内をしてもらえます。
    各地域に地方事務所があります。

    著作物の分野ごとの団体

    音楽、文芸、美術、写真、映画、コンピュータ・プログラム、放送、実演、レコード、書籍、新聞などの分野ごとに組織されている団体に、その分野における慣行などを確認することもできます。多くの場合、権利者としての立場からの助言や情報提供であること、その分野における考え方であることなどを念頭に置いて相談すると、参考になる情報が得られるでしょう。

    放送

    日本放送協会 (NHK) 〒150-8001
    東京都渋谷区神南2-2-1
    03(3465)1111
    一般社団法人
    日本民間放送連盟 (JBA)
    〒102-8577
    東京都千代田区紀尾井町3-23
    03(5213)7717

    コンピュータ・プログラム

    一般社団法人
    コンピュータソフトウェア
    著作権協会 (ACCS)
    〒112-0012
    東京都文京区大塚5-40-18
    友成フォーサイトビル5階
    03(5976)5175

    ビデオ

    一般社団法人
    日本映像ソフト協会 (JVA)
    〒104-0045
    東京都中央区築地2-12-10
    築地MFビル26号館3階
    03(3542)4433
    株式会社
    日本国際映画著作権協会 (JIMCA)
    〒102-0082
    東京都千代田区一番町23-3
    第一生命一番町ビル6階
    03(3265)1401

    出版

    一般社団法人
    日本書籍出版協会 (JBPA)
    〒101-0051
    東京都千代田区神田神保町1-32
    出版クラブビル5F
    03(6273)7061

    写真

    一般社団法人
    日本写真著作権協会 (JPCA)
    〒102-0082
    東京都千代田区一番町25
    JCIIビル3階403
    03(3221)6655

    著作権等管理事業者

    権利を集中的に管理し、権利の許諾を行っている団体(例えば、「音 楽」や「文献複写」に関して許諾業務を行っている一般社団法人日本音楽著作権協会、公益社団法人日本複製権センターなど)がありますが、最新の著作権等管理事業者の情報は、文化庁のホームページをご確認ください。

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